生活習慣病

生活習慣病とは?

近年、食の欧米化や運動不足を背景に生活習慣病(糖尿病、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症)が増加し、社会的な問題となっています。生活習慣病は自覚症状に乏しいのですが、放置すると徐々に動脈硬化(動脈の血管が硬くなって柔軟性が失われた状態)が進行し、日本人の死因の上位を占める心疾患(心筋梗塞や狭心症)や脳疾患(脳梗塞や脳出血)などの原因となります。従って、生活習慣病の予防早期発見・早期治療がとても大切です。
糖尿病専門医として、臨床の現場で多くの生活習慣病の方を診療させて頂き、治療の重要性を肌で感じています。心疾患や脳疾患の発症を抑制するために、動脈硬化が進行する前、もしくは発症してもそれ以上進行させないよう、日々の健康管理が大切だと考えています。
当クリニックでは、生活習慣病(糖尿病、肥満症、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症)を専門に治療を行っています。下記のような診療の流れで生活習慣病の把握や動脈硬化の評価を行い、一人ひとりに合った治療を提案し、良好な状態を長く維持できるようにサポートさせて頂きます。精査や追加治療が必要と判断した場合は、近隣のクリニックや医療機関と連携して診療にあたります。

生活習慣病の診療の流れ

STEP
受付
STEP
身長、体重の測定
STEP
血圧、脈拍の測定
STEP
問診、診察
STEP
血液検査
体組成検査(筋肉量や脂肪量測定)
動脈硬化検査(超音波、血圧脈波検査)
STEP
結果と治療方針の説明
Inbody
Inbody
エコー
エコー
血圧脈波検査装置
血圧脈波検査装置

肥満症

私たちの祖先は過酷な環境下で生き抜き、長く飢餓と戦ってきました。そのため狩猟が成功し食料にありつけた際に、効率よくエネルギーを蓄積していくよう体質を変化させて来ました。いわゆる「省エネ体質」を獲得したわけですが、現代は飽食と運動不足が問題になるような時代です。皮肉なことに、先祖が長年かけて獲得した「省エネ体質」は、現代において肥満症を発症する基盤になっています。
日本では肥満は、BMI (body mass index)= 体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)という、体格指数が25以上のものとされています。
さらに糖代謝異常・高血圧症・脂質異常症などの健康障害を伴う場合や伴わない場合でも内臓脂肪が蓄積(ウエスト周囲長;男性85cm、女性90cm以上)した状態では、「肥満症」と診断でき、医学的に減量が必要とされています。
肥満

肥満に関する健康被害

  • 耐糖能異常、糖尿病
  • 脂質異常症
  • 高血圧症
  • 高尿酸血症
  • 冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)
  • 脳梗塞
  • 脂肪肝
  • 月経異常
  • 肥満関連腎臓病
  • 整形外科的疾患(変形性関節症、腰痛症)
  • 睡眠時無呼吸症候群

分類

肥満症の分類として、原発性肥満(世間一般で言う肥満)と二次性肥満(病気が原因で発症)があります。二次性肥満は内分泌疾患、遺伝疾患、薬剤などを背景とした肥満ですので、原因を特定することが重要で、病気の種類によっては原疾患の治療により改善が見込めます。

治療

前述の通り、二次性肥満であれば、各疾患に準じた治療が必要です。それ以外の肥満症(原発性肥満)の治療には、「食事・運動療法」「薬物療法」「手術療法」があります。過度な減量はリバウンドの原因となります。体重3~5%の減量(例:80kgならば、約2.5~4kg)にて糖・脂質代謝、肝機能障害などが改善するとされています。
当クリニックでは初診時に、問診にてライフスタイルをお伺いし、身長/体重測定・体組成(筋肉量と脂肪量の評価)検査・採血検査などを行い、治療方針を決定します。2次性肥満が疑われ、さらなる精査が必要であれば、高次機能病院へ紹介します。
治療の中心は、食事療法と運動療法で、補助として薬物療法を用います。食事と体重の記録を行いながら、3~6ヶ月の間で体重の3~5%減を目指します。ライフスタイルを大きく崩さず、無理のない食事と運動療法を提案させて頂きます。また1日3食のうち1食分をフォーミュラ食(※)に置換える方法も減量に有効とされていますので、患者さんの病態を考慮して検討します。薬物療法に関しては、BMI35以上の高度肥満であれば、マジンドール(3ヶ月以上の長期処方はできません)の服用を検討します。当クリニックは、漢方診療を専門に行っていますので、保険診療の範囲内で、体質にあった漢方薬を提案させて頂き、効率的で健康的な身体づくりをサポートします。原発性肥満症であり、6ヵ月以上の内科的治療を行ったにも関わらず、治療効果の乏しいBMI35以上の高度肥満やBMI32以上でも糖尿病か、またそれ以外の2つ以上の合併疾患を有する場合は、手術療法も考慮されます。
※フォーミュラ食:エネルギー源である糖質・脂質を極力少なくし、必要十分量のたんぱく質・ミネラル・ビタミンを含む規定食のこと。
1食が200kcal以下(1日の成人摂取量の1/3量)、蛋白質を20g程度含み、ビタミン、ミネラルなどの栄養素を必要量含む。

脂質異常症(高コレステロール血症)

血液中に存在する脂質には、中性脂肪(TG)、LDLコレステロール(LDL-C;悪玉)、HDLコレステロール(HDL-C;善玉)があります。脂質異常症は、これらの血液中の脂質分の代謝に異常がある状態とされ、高TG血症、高LDL-C血症、低HDL-C血症があります。他の生活習慣病と同様に、脂質異常症が長期に及べば動脈硬化性疾患(脳梗塞、心筋梗塞など)の発症リスクが高まります。
40歳以上の日本人の5人に1人が脂質異常症と言われ、女性は男性の2倍多い状況です。男女ともに50~60歳前後がピークですが、特に女性の場合は閉経前後から増加し、動脈硬化性疾患のリスクが高まることが知られています。脂質異常症には、自覚症状はほとんどありません。家族性高コレステロール血症という病気で著明な脂質異常がある場合、アキレス腱の肥厚、肘や膝に脂肪の塊などができる事がありますが、それでも自覚症状がほぼないため、放置する方が多いのが現状です。結果、心筋梗塞になって初めて脂質異常症を指摘されることも少なくありません。自覚症状がない分、定期的な健康診断を受けることが大切です。

診断

脂質異常症の診断基準は下記のとおりですが、この基準に当てはまる場合でも、すぐに治療が必要というわけではありません。年齢、喫煙、家族歴、他の生活習慣病の有無を考慮し、治療の目標値が決定されます。
【脂質異常症の診断基準】
LDL-C 140mg/dl以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dl 境界域高LDLコレステロール血症
HDL-C 40mg/dl未満 低HDLコレステロール血症
TG 150mg/dl以上 高TG(トリグリセライド)血症
non-HDL-C 170mg/dl以上 高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dl 境界域non-HDLコレステロール血症

治療

生活習慣の改善(食事・運動療法)が治療の基本です。改善に乏しい場合に薬物療法が考慮されますが、家族性高コレステロール血症や糖尿病、慢性腎臓病などの疾患を合併している場合は早期の薬物療法を検討します。

食事療法

  • 高LDL-C血症:特に飽和脂肪酸(冷蔵庫に入れると固まる油)、次いでに鶏卵などのコレステロールの多い食品の摂りすぎに注意しましょう。
  • 高TG血症:糖質やアルコールの過剰摂取を控えてください。これらは肝臓において新たな脂肪合成の促進因子になります。脂肪分解を助けてくれるn-3系多価不飽和脂肪酸(冷蔵庫に入れても固まらない油)を多く含む魚類、エゴマ油を取り入れた食事をしましょう。
    アルコール:20〜25g/日以下に抑える(例:缶ビール500mlを1日1本まで)
【冷蔵庫に入れると固まる油】
  飽和脂肪酸
  • 脂肪の多い肉、ベーコン
  • 卵、バターやチーズなどの乳製品
  • ココナッツ油
  • チョコレート、ビスケット
【冷蔵庫に入れても固まらない油】
  不飽和脂肪酸
  • 魚介類、魚の卵
  • 豆腐、油揚げ
  • 大豆油、菜種油、ごま油

運動療法

運動療法は糖尿病内科の運動療法をご覧ください。

薬物療法

脂質異常症治療薬にはスタチン、フィブラート、多価不飽和脂肪酸など合計で9系統、20種類以上の薬剤があります。高LDL-コレステロール(LDL-C)血症が主体なのか、高中性脂肪(TG)血症が主体なのか、患者さんの脂質の状態によって選択する薬剤が変わってきます。
「一度薬を開始すれば、一生中止できないのでは?」と考えている方もいると思います。内服を開始しても、その間に食事・運動療法で改善できれば、内服の中止は可能です。しかし、糖尿病や冠動脈疾患(心筋梗塞など)の方は、目標値が低めに設定されていますので、中止のタイミングは、その方の病態や経過次第と言えます。疑問がある方は、診察時にお気軽にご相談ください。

高血圧症

血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力(圧力)を指し、心臓から出る血液量(心拍出量)と血管の硬さ(末梢血管抵抗)で決まります。また、血圧は自律神経、腎機能、塩分摂取量、外気温、生活環境の変化(ストレス、寝不足、過度な緊張)に影響されます。
高血圧症自体は、一般的には症状はありませんが、時に頭痛や肩こりの原因になります。他の生活習慣病と同様に、長期に及べば動脈硬化性疾患の発症リスクが高まります。厚生労働省発表の「人口動態統計の概況」によると、高血圧性疾患(高血圧性心疾患および心腎疾患、脳血管疾患)の死亡者数は年間約1万人弱(2017年)とされ、脳心血管死亡者のうち、原因として最大です。
高血圧症
血圧 = 心拍出量(拍出量×心拍数)×  末梢血管抵抗
心拍出量・・・心臓から出る血液量
末梢血管抵抗・・・血管の硬さ

診断

血圧は一般的には、120/80mmHg(収縮期血圧/拡張期血圧)前後で、正常値は、140/90mmHg未満(家庭血圧値:135/85mmHg未満)になります。収縮期血圧もしくは拡張期血圧のどちらか、あるいは両者が正常値を超えたときに、高血圧症と診断されます。
多くが本態性高血圧症(普通の高血圧症)ですが、中には二次性高血圧症といって、原疾患の治療により根治が目指せる高血圧症もあります。二次性高血圧症には、腎血管性高血圧(腎動脈の狭窄)、ホルモン異常(原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、甲状腺機能異常などがあり、初期の鑑別が重要となります。当クリニックでも初診時に年齢不相応の高血圧症あるいは血圧著明高値を認めた場合、二次性高血圧症の原因精査を行います。

治療

まずは、血圧を正しく評価することが重要です。今までの臨床研究から、測定した血圧の信頼性や心血管イベントのリスクは診察室血圧よりも家庭血圧の方が密接に関連していることが報告されています。そこで、当クリニックでも診察室で測定する「診察室血圧」よりも家庭で測定する「家庭血圧」を重視して、診療しますので、高血圧症の診療においては、日々自宅で測定した血圧表を持参して頂く方針としています。
【家庭血圧の目安】
  血圧(未満)
若年、中年、前期高齢者 125/75
後期高齢者 135/85
糖尿病 125/75
慢性腎臓病(蛋白陽性)
脳血管障害
冠動脈疾患
食事療法、運動療法(20~30分以上/回の有酸素運動)、減塩(6~7g未満/日)が効果的です。 塩分は、意外と落とし穴が多いので、減塩パンフレットを見ながら、日々の生活習慣を振り返りましょう。減塩目標である6~7g未満/日は、複数の食品を組み合わせると、1~2食分でもあっという間に基準外の塩分量になります。
例)ラーメン6g、梅干し2g、食パン+バター1g、ロースハム(30g)0.8g。
血圧の程度や他疾患合併の有無によりますが、1~3ヵ月間、生活習慣の改善を行っても血圧コントロールが困難な場合は、投薬が必要となります。高リスク(糖尿病、尿蛋白を伴う慢性腎臓病など)の方の場合は、早期の投薬が推奨されています。
【降圧目標の目安】
  診察室血圧(mmHg) 家庭血圧(mmHg)
75歳未満の成人
脳血管障害(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)
冠動脈疾患
慢性腎臓病(尿蛋白陽性)
糖尿病
抗体血栓薬服薬中
<130/80 <125/75
75歳以上の高齢者
脳血管障害(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価)
慢性腎臓病(尿蛋白陰性)
<140/90 <135/85

高尿酸血症、痛風

血液中の尿酸値が7.0mg/dl以上と高い状態を高尿酸血症と言います。痛風とは高尿酸血症の状態が続き、足の関節などに尿酸の結晶が沈着することで、関節とその周辺組織で激しい炎症を起こす病気のことです。多くの場合、足の関節(特に足の親指の付け根)に急激に炎症が起こり、痛みとともに赤く腫れるなどの症状が出現します。その痛みは、痛風という名の通り、「風に吹かれただけでも痛む」ほどの激痛です。その他、足首、膝、手首、肘など、他の部位に生じることもあります。
発症年齢は、30~40歳に多いのですが、近年は若年層(20歳前後)の発症例も比較的多く報告され、肥満の関与が指摘されています。高尿酸血症による病気として、痛風が有名ですが、その他、尿路結石、腎機能障害(痛風腎)、動脈硬化性疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)の原因になることから、他の生活習慣病と同様に日頃の管理が重要です。
痛風

原因

尿酸は、細胞中の核酸(DNA、RNA)が分解されるときの副産物です。体内で産生された尿酸は、腎臓から排泄されますが、正常な場合でも、少量の尿酸が血液中に存在します。また、食品に含まれるプリン体と呼ばれる物質が、体内で尿酸に変換されます。従って、高尿酸血症の原因は、以下になります。
  • 腎臓からの尿酸排泄低下
  • 尿酸の過剰産生
  • プリン体を多く含む食品やアルコールの過剰摂取

治療

痛風発作

この時期は、まずは炎症を鎮静化させることを優先します。痛風発作時には、後述の尿酸降下薬は使用しません。急激な尿酸値の変動は、かえって発作を悪化させます。
前兆期:コルヒチン
痛風発作極期:非ステロイド抗炎症薬、無効な場合は経口副腎皮質ステロイドを投与します。

高尿酸血症

プリン体を多く含む食品の摂取は控えましょう。プリン体が比較的多いビールを避け、焼酎やウイスキーのような蒸留酒に変えれば良いという問題ではありません。アルコールはそれ自体が尿酸値を上げる作用があるため、禁酒・節酒は高尿酸血症の治療に大切です。
また、運動療法で肥満を解消することも重要です。脂肪組織には尿酸産生を促進する酵素があります。尿酸は脱水で悪化しますので、こまめな飲水を心掛けましょう。
(1)血清尿酸値7.0mg/dl以上で、痛風関節炎や痛風結節の既往がある場合、(2)血清尿酸9.0mg/dl以上の場合、(3)血清尿酸値8.0mg/dl以上で合併症(腎障害、尿路結石、高血圧症、糖尿病、メタボリックシンドローム、虚血性心疾患)がある場合は、薬物療法(尿酸産生抑制薬や尿酸排泄促進薬)の開始を検討します。

食事療法のまとめ

  • プリン体を多く含む食品を避ける
    えび、レバー類、干物(いわし、あじ)、いくら、たらこ、かつお、干し椎茸、ビールなど
  • 水分摂取を心掛ける
  • アルコールを控える
  • 運動を併用した肥満の解消