高血圧症
血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力(圧力)を指し、心臓から送り出される血液の量(心拍出量)と血管の硬さ(末梢血管抵抗)によって決まります。また、血圧は自律神経、腎機能、塩分の摂取量、外気温、さらには生活環境の変化(ストレス、寝不足、過度な緊張)に影響されます。
高血圧症自体は、一般的に症状が現れることは少ないのですが、時に頭痛や肩こりの原因になります。他の生活習慣病と同様に、長期に及べば動脈硬化性疾患の発症リスクが高まります。厚生労働省発表の「人口動態統計の概況」によると、高血圧性疾患(高血圧性心疾患および心腎疾患、脳血管疾患)の死亡者数は年間約1万人弱(2017年)とされ、脳心血管死亡者のうち、原因として最大です。
高血圧症

診断

血圧は一般的に120/80mmHg(収縮期血圧/拡張期血圧)前後であり、正常値は140/90mmHg未満(家庭血圧では135/85mmHg未満)とされています。収縮期血圧または拡張期血圧のいずれか、あるいは両方が正常値を超えた場合、高血圧症と診断されます。
高血圧症の多くは本態性高血圧症と呼ばれる一般的な高血圧症ですが、一部には、原疾患の治療によって根治を目指せる二次性高血圧症も存在します。二次性高血圧症には、腎血管性高血圧(腎動脈の狭窄)やホルモン異常(原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、甲状腺機能異常)などが含まれ、初診時の鑑別が非常に重要です。当クリニックでは、初診時に年齢にそぐわない高血圧や著しく高い血圧が確認された場合、二次性高血圧症の原因精査を実施しています。

治療

まず、血圧を正確に評価することが非常に重要です。これまでの臨床研究では、測定した血圧の信頼性や心血管イベントのリスクが、診察室血圧よりも家庭血圧の方が密接に関連していることが報告されています。そこで、当クリニックでは、診察室で測定する「診察室血圧」よりも、家庭で測定する「家庭血圧」を重視した診療を行っています。
高血圧症の診療では、ご自宅で日々測定した血圧の記録をお持ちいただくことをお願いしています。
治療方法には、生活習慣の調整(食事や運動療法)と薬物療法があり、患者さん一人ひとりに応じた治療目標を設定して治療に取り組んでいます。
【高血圧症の治療目標値】
  診察室血圧(mmHg) 家庭血圧(mmHg)
75歳未満の成人
脳血管障害(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)
冠動脈疾患
慢性腎臓病(尿蛋白陽性)
糖尿病
抗体血栓薬服薬中
<130/80 <125/75
75歳以上の高齢者
脳血管障害(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価)
慢性腎臓病(尿蛋白陰性)
<140/90 <135/85
【高血圧症における食事、運動療法のポイント】
  • 減塩を心がけましょう。1日あたりの塩分摂取目標量は6g未満です。
  • カリウムを多く含む野菜、果物、海藻を積極的に摂りましょう。※ただし、腎機能が低下している方は医師に摂取量をご相談ください。
  • 適正なエネルギー量を摂取し、肥満を避けましょう。
  • アルコールは適量にとどめ、運動を積極的に行いましょう。

食事療法

さまざまな食品をバランスよく食べることが大事です。

おすすめの食材(カリウムを含む食材)

カリウムには、過剰なナトリウムを尿として体外に排出する作用があり、降圧効果が期待できます。カリウムを多く含む食材には、野菜、芋類、海藻、果物、豆類などがあります。カリウムは水に溶けやすい性質を持つため、生で食べられるものはできるだけそのまま食べるようにしましょう。火を通す場合は、みそ汁やスープなど、調理液ごと摂取できる料理がおすすめです。1日に理想とされる量は、男性で3,000mg以上、女性で2,600mg以上です(日本人の食事摂取基準〔2020年版〕)。
  • 野菜類:トマト、ほうれん草、ブロッコリー、かぼちゃ、れんこん、カリフラワーなど。
  • 根菜類・いも類:さつまいも、里芋など。
  • 豆類:大豆(納豆、豆腐などの加工品を含む)、ひよこ豆、黒豆、小豆、ソラマメなど。
  • ナッツ類:アーモンド、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、くるみ、マカダミアナッツなど。
  • 果物:バナナ、アボカド、キウイ、みかん、メロン、干し柿、ドライいちじくなど。
  • 海藻類:昆布、わかめ、ひじき、海苔、あおさなど。

食べ過ぎに注意なもの

高血圧症の原因には、遺伝要因、肥満、運動不足、飲酒、ストレスなどさまざまなものがありますが、特に食事は血圧に大きく影響します。そのため、塩分の過剰摂取や過食、偏食などを見直し、食生活を改善することが重要です。
  • 塩分の多い食品:塩分の多い食品には、漬物、ラーメン、インスタント食品、スナック菓子、調味料、練り製品などがあります。体内では、水分と塩分が一定の濃度で保たれていますが、塩分を過剰に摂取すると、一時的に高くなった塩分濃度を下げるために水分を溜め込もうとします。その結果、心臓に送り込まれる血液量が増え、血管にかかる圧力が上昇し、血圧が高くなってしまいます。このため、1日あたりの塩分摂取目標量は6g未満とされています。しかし、現在の日本人の平均塩分摂取量は約10gと、目標を大幅に上回っています。普段の食事では、薄味を意識した味付けにする、ソースや調味料の使用を控える、減塩食品を積極的に取り入れるなどの工夫を心がけて、減塩を目指しましょう。
  • アルコール類:アルコール摂取量が増えると血圧が上昇しやすく、脂質や塩分の多い食事を選びがちになることで栄養バランスが崩れます。さらに、過剰摂取は肝機能低下を招き、脂質異常や血糖値の上昇を通じて動脈硬化を進行させ、心臓病や脳卒中のリスクを高めます。目安としては、ビールは500ml、焼酎110ml、ワイン180ml、缶チューハイ500mlです(女性はこの半分の量が目安)。飲酒は適度な量に抑え、休肝日を設けることを心がけましょう。
  • 脂肪分や糖分の多い食品:脂質や糖分を多く含む食品には、ベーコン、ウィンナーなどの加工食品、揚げ物、バター、チョコレート、ケーキ、ジュースなどがあります。これらを摂りすぎると、肥満(特に内臓脂肪の蓄積)を招き、血圧上昇の原因となります。肥満を避けるためには、各個人の適正なエネルギー量を把握し、それに基づいた食事管理を行うことが重要です。 当クリニックでは、皆さまの健康をサポートするために適切なアドバイスを提供しておりますので、ぜひご相談ください。

運動療法

運動は習慣化することで、高血圧症の改善だけでなく、脂質異常症や糖尿病などの生活習慣病の予防、体力・筋量の維持、認知症予防などが期待されます。日々の生活の中で、ご自身にあった運動を取り入れましょう。
【運動療法のポイント】
  • 寒い場所での運動は避ける
  • 息を止めて力を入れるような運動はしない
  • 過度な筋トレは避ける
  • 麦茶やミネラルウォーターなどで水分補給をしましょう
  • 運動を始める前はしっかり準備運動を行いましょう

有酸素運動

有酸素運動を一回20~30分、週に2~3回ほど行いましょう。激しい運動は、血管に負担がかかり血圧が上昇するため、適度な運動を無理なく継続して行えるよう心がけましょう。
【おすすめの有酸素運動】
ウォーキング、早歩き、水泳、水中歩行、ラジオ体操、ヨガ、エアロビクス、ベンチステップ、スロージョギング(歩くぐらいの速さで走る)、自転車など太ももやお尻の大きな筋肉をダイナミックに動かす運動
【運動強度】
軽く息が弾む程度からややきついと感じる程度の中強度以上の運動をおすすめします。筋肉トレーニングなど息を止めて力を入れる運動は、血圧を高める恐れがあるため、ご自分の体にあった最適な運動を医師とよく相談することが大切です。

筋力トレーニング

筋肉量が増えると基礎代謝が上がるため、血圧を下げる効果が期待できます。無理のない範囲で行いましょう。
【おすすめの有酸素運動】
腕立てふせ、スロースクワット、ベンチステップなど
【運動強度】
週に2~3日、10回でしんどくなる程度の筋力トレーニングを1~2セット行うとよいでしょう。

薬物療法

血圧の程度や他疾患合併の有無によりますが、1~3ヵ月間、生活習慣の改善を行っても血圧コントロールが困難な場合は、投薬が必要となります。高リスク(糖尿病、尿蛋白を伴う慢性腎臓病など)の方の場合は、早期の投薬が推奨されています。