脂質異常症(高コレステロール血症)
血液中に存在する脂質には、中性脂肪(トリグリセリド:TG)、LDLコレステロール(悪玉コレステロール:LDL-C)、HDLコレステロール(善玉コレステロール:HDL-C)があります。脂質異常症は、これらの血液中の脂質代謝に異常がある状態を示し、高中性脂肪血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症などがあります。他の生活習慣病と同様に、脂質異常症が長期化すると、動脈硬化性疾患(脳梗塞や心筋梗塞など)の発症リスクが高まります。
40歳以上の日本人のうち、5人に1人が脂質異常症とされています。特に女性は男性の約2倍の割合で発症しています。男女ともに発症のピークは50〜60歳前後ですが、女性は閉経前後から発症率が上がり、動脈硬化性疾患のリスクが高まることが知られています。脂質異常症は、自覚症状がほとんどありません。家族性高コレステロール血症という疾患では、アキレス腱の肥厚や肘・膝に脂肪の塊ができることがありますが、これもほとんどの方が自覚症状に気づかず、放置されることが多いのが現状です。その結果、心筋梗塞を発症して初めて脂質異常症が見つかるケースも少なくありません。自覚症状がないからこそ、定期的な健康診断を受けることが重要です。

原因

脂質異常症の原因の多くは、食生活の乱れや運動不足です。日頃から砂糖の入ったソフトドリンクやお菓子などの甘い物、アルコール、たばこ、揚げ物(油)の摂り過ぎは、コレステロール値や中性脂肪値を高める要因となります。また、脂質異常症の中には、遺伝的な要因によって引き起こされる家族性高コレステロール血症もあります。この場合、体型や年齢に関係なくコレステロール値が高くなり、動脈硬化の進行が早いことが知られています。家族や近親者に脂質異常症の人が多い場合は、早めに病院を受診し、医師による治療や指導を受けることが重要です。

症状

脂質異常症は自覚症状がほとんどありません。しかし、脂質異常症は高血圧症や糖尿病と同様に「サイレントキラー」と呼ばれ、症状がないまま動脈硬化がゆっくりと進行するため、注意が必要です。放置すれば、動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞といった心疾患、また脳梗塞や脳出血といった脳血管疾患を引き起こす最大の危険因子となります。健康診断で脂質異常症を指摘された場合は、放置せずに早めに受診しましょう。

診断

脂質異常症の診断基準は以下のとおりですが、この基準に当てはまっても、ただちに治療が必要になるわけではありません。治療の目標値は、年齢、喫煙の有無、家族歴、他の生活習慣病の有無などを総合的に考慮して決定されます。
【脂質異常症の診断基準】
LDLコレステロール 140mg/dl以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dl 境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール 40mg/dl未満 低HDLコレステロール血症
中性脂肪 150mg/dl以上 高TG(トリグリセライド)血症
non-HDLコレステロール 170mg/dl以上 高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dl 境界域non-HDLコレステロール血症

治療

生活習慣の改善(食事療法や運動療法)が治療の基本です。改善が見られない場合には薬物療法が考慮されます。特に、家族性高コレステロール血症と診断された方や、脂質異常症に加えて糖尿病や慢性腎臓病などを合併している場合には、動脈硬化性疾患の発症リスクが高まるため、早期に薬物療法の検討が必要です。

食事療法

  • 高LDLコレステロール血症の方:1日あたりのコレステロール摂取量は、300mg以下が推奨されています。以下のような飽和脂肪酸(冷蔵庫に入れると固まる油)を摂り過ぎないように注意しましょう。特に、マーガリンやショートニングなどの食品に含まれるトランス型不飽和脂肪酸(トランス脂肪酸)は、飽和脂肪酸よりも強力にLDL(悪玉)コレステロールを増加させることが分かっています。「食用精製加工油脂、「部分水素添加油」や「トランス脂肪酸ゼロ」といった表示があるかどうか、ラベルを確認することが有効です。
  • 高中性脂肪(トリグリセライド)血症の方:適正な体重を維持するためには、1日の摂取カロリーを見直し、エネルギーバランスを保つことが重要です。一般的に、高中性脂肪血症の方は肥満を合併していることが多く、減量することで中性脂肪値を効果的に減少させることができます。過剰な炭水化物の摂取(米、パン、お菓子)は、肝臓での中性脂肪の合成を促進し、高中性脂肪血症の原因となります。イワシやサンマなどの青魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)、ゴマ油などの植物油に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸(冷蔵庫に入れても固まらない油)を積極的に摂取することで、中性脂肪の合成を抑える効果が期待できます。
【冷蔵庫に入れると固まる油】
  飽和脂肪酸
  • 脂肪の多い肉、ベーコン
  • 卵、バターやチーズなどの乳製品
  • ココナッツ油
  • チョコレート、ビスケット
【冷蔵庫に入れても固まらない油】
  不飽和脂肪酸
  • 魚介類、魚の卵
  • 豆腐、油揚げ
  • 大豆油、菜種油、ごま油

おすすめの食材

  • サンマ、サバ、イワシ、アジなどの青魚
  • 豆腐、納豆、豆乳などの大豆製品
  • 色の濃い野菜、繊維の多い野菜
  • 昆布、わかめなどの海藻類
  • きのこ類
  • こんにゃく

食べ過ぎに注意なもの

  • 鶏卵
  • イクラ、たらこ、すじこなどの魚卵
  • ばら肉、皮などの肉類の脂身
  • モツ、レバー、肝などの肉・魚の内臓
  • マーガリン、ショートニングなどのトランス型不飽和脂肪酸を多く含む食品
  • クッキー、ケーキなどの生クリーム・バターを多量に使用する食品
  • アルコール
  • 砂糖入りの清涼飲料水
  • 唐揚げ、天ぷら、ファストフードなどの脂っこいもの
  • 塩分(1日6gまで)

共通の摂取目標

  • 炭水化物:炭水化物の摂り過ぎは体重増加や中性脂肪値の上昇につながります。総摂取エネルギーの50〜60%程度を目安にしましょう。白米に玄米や大麦を混ぜること、ライ麦パンや全粒粉パンを選ぶのがおすすめです。
  • たんぱく質:牛肉や豚肉などの動物性肉類だけでなく、魚や大豆製品も積極的に摂取し、総摂取エネルギーの15~20%をたんぱく質から摂ることを目指しましょう。
  • アルコール:1日あたりの適正飲酒量(節度ある適度な飲酒量)は、男性と女性で異なります。男性の場合は20〜25g、女性の場合は10〜15gを目安にしましょう。男性の場合、ビールなら500ml(中瓶1本)、日本酒なら1合(180ml)、焼酎ならロック1杯(約70ml)に相当します。女性の場合、ビールなら250ml(小瓶1本)、日本酒なら半合(90ml)、焼酎ならロック半杯(約35ml)に相当します。週に2〜3日は休肝日を設けることが大切です。おつまみには、食物繊維が豊富で動物性脂肪が少ないものを選びましょう。例えば、枝豆(1皿50g)、冷奴(半丁)、野菜サラダ(ドレッシングは控えめに)、生ハム(2~3枚)、無塩のナッツ(20g)、刺身(マグロやサーモンなど)がおすすめです。
  • 食物繊維:1日あたりの摂取目安は20〜25gです。野菜は1日350g程度を目標にしましょう。緑黄色野菜(ピーパン、人参、ほうれん草)や淡色野菜(キャベツ、大根、キュウリ)に加え、海藻やきのこ類も取り入れることで、腸管での脂肪吸収を抑える効果が期待されます。
  • 抗酸化食品:ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質や、ポリフェノールを多く含む野菜や果物を、毎食1皿分積極的に摂取しましょう。例えば、ビタミンCは柑橘類(オレンジ、グレープフルーツ)や野菜(ブロッコリーやパプリカ)に、ビタミンEはナッツ類(アーモンドやひまわりの種)や野菜(モロヘイヤ、かぼちゃ)に多く含まれています。また、ポリフェノールはブルーベリーや赤ワインに豊富です。ただし、果物の摂取量は1日80〜100kcal以内に抑えることが推奨されます。例えば、リンゴなら半個、バナナなら1本が目安です。
当クリニックでは、医師をはじめ、管理栄養士や他のスタッフが一丸となって、適正な食事量やバランスの取れた食事内容を実践できるよう、丁寧にサポートいたします。患者さんのライフスタイルや健康状態に合わせ、無理なく実践できる食事改善をお手伝いいたします。

運動療法

脂質異常症の改善には、食事療法と運動療法を同時に取り入れることが非常に重要です。運動療法は血中脂質の改善に効果があり、脂質異常症の解消に役立ちます。糖尿病内科の運動療法もご一緒にご覧ください。
【運動療法のポイント】
  • 体調がよい時に行う
  • 食後は避け、食前または食後2時間経ってから運動しましょう
  • 早朝、炎天下の運動は避ける
  • 水分補給は忘れずに
  • 無酸素運動よりも有酸素運動が有効です

有酸素運動

有酸素運動を1回20~30分ほど行いましょう。時間が取れない場合は、階段をなるべく使う、立っているときにつま先立ちをするなど、日常の動作の中で体を動かす工夫をしてみましょう。体力がついてきて余裕があれば、運動の頻度を週に2~3回程度に増やし、さらにご自身に合った筋力トレーニングを加えることで、より一層の効果が期待できます。
【おすすめの有酸素運動】
ウォーキング、早歩き、水泳、水中歩行、ラジオ体操、ヨガ、スロージョギング(歩くぐらいの速さで走る)、自転車など、太ももやお尻の大きな筋肉をダイナミックに動かす運動がおすすめです。
【運動強度】
中強度以上の運動をおすすめします。中強度以上の運動とは、楽に行える程度からややきついと感じる程度で、息が弾むくらいの運動を指します。そのため、通常の歩行より少し強度の高い運動が理想的です。ただし、高血圧や狭心症などの持病がある方や体力が低い方は、急に運動を始めると身体に大きな負担がかかるため、最初から無理をしないようにしましょう。まずは掃除や洗車、自転車での買い物など、日常生活の中で身体活動量を増やすことから始めると良いでしょう。

薬物療法

脂質異常症治療薬にはスタチン、フィブラート、多価不飽和脂肪酸など、9系統、20種類以上の薬剤があります。高LDL-コレステロール(LDL-C)血症が主体なのか、高中性脂肪(トリグリセリド:TG)血症が主体なのか、患者さんの脂質の状態によって選択する薬剤が変わってきます。
「一度薬を始めると、一生中止できないのでは?」と不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、薬を服用している間に、食事療法や運動療法によって改善が見られれば、薬を中止できることもあります。ただし、糖尿病や冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)などの基礎疾患をお持ちの方は、脂質管理の目標値が低めに設定されるため、薬の中止のタイミングは病態や経過に応じて慎重に決まります。ご不明な点があれば、診察時にお気軽にご相談ください。