私たちの祖先は、過酷な環境で生き抜き、長い間飢餓と戦い続けてきました。そのため、狩猟が成功して食料を得られた際には、効率的にエネルギーを蓄積できるように体質を変化させてきたのです。このようにして獲得された、いわゆる「省エネ体質」は、現代において皮肉にも肥満症の原因となっています。飽食や運動不足が問題となる現代社会では、祖先が長い時間をかけて獲得したこの体質が、私たちの健康に新たな課題をもたらしています。
日本では、肥満はBMI(Body Mass Index)= 体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)という体格指数が25以上の場合を指します。
さらに、糖代謝異常・高血圧症・脂質異常症などの健康障害を伴う場合や、健康障害がなくても内臓脂肪が蓄積している状態(ウエスト周囲長:男性85cm以上、女性90cm以上)は、「肥満症」と診断され、医学的な減量が必要とされます。
肥満に関する健康被害
- 耐糖能異常、糖尿病
- 脂質異常症
- 高血圧症
- 高尿酸血症
- 冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)
- 脳梗塞
- 脂肪肝
- 月経異常
- 肥満関連腎臓病
- 整形外科的疾患(変形性関節症、腰痛症)
- 睡眠時無呼吸症候群
原発性肥満
世間一般で「肥満」と呼ばれる状態です。主に生活習慣の乱れが原因で、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ることで生じます。皮下組織に脂肪が蓄積されている「皮下脂肪型」は女性に多く、お尻や太ももなど下半身に脂肪が蓄積されるため洋ナシ型肥満とも呼ばれています。これに対し、比較的男性に多く、下半身よりもウエストまわりが大きくなるためリンゴ型肥満とも呼ばれている「内臓脂肪型肥満」があります。
二次性肥満
内分泌疾患、遺伝性疾患、薬剤の副作用などが原因で生じる肥満の場合、減量よりもまず肥満の原因を特定することが重要です。病気の種類によっては、原疾患の治療によって改善が期待できます。たとえば、食事量が変わっていないにもかかわらず短期間で急激に体重が増える、低体温、生理不順、足のむくみといった症状がある場合や、健康診断で肥満に加えて腎機能・肝機能の異常や糖尿病の可能性を指摘された場合には、早めに医師に相談することをおすすめします。
治療
前述の通り、二次性肥満の場合は、各疾患に応じた治療が必要です。一方、それ以外の肥満症(原発性肥満)の治療には、「食事療法」「運動療法」「薬物療法」「手術療法」があります。過度な減量はリバウンドを引き起こす原因となるため注意が必要です。体重の3~5%の減量(例:80kgの場合、約2.5~4kg)でも糖代謝や脂質代謝、肝機能障害などの改善が期待できます。
当クリニックでは、患者さんのライフスタイルをできるだけ維持しながら、無理のない食事療法と運動療法を提案しています。治療の中心は食事療法と運動療法で、必要に応じて薬物療法を補助的に用います。また、1日3食のうち1食をフォーミュラ食(※)に置き換える方法も、減量に効果的とされており、患者さんの病態に応じて慎重に検討します。
食事や体重の記録を行いながら、3~6ヶ月の間に体重の3~5%減を目指します。減量の経過は緩やかでも、筋肉量を維持しつつ脂肪量のみを減らす治療が理想的です。
初診時に問診にてライフスタイルをお伺いし、身長・体重測定、体組成(筋肉量と脂肪量の評価)検査、採血検査などを行い、治療方針を決定します。二次性肥満が疑われ、さらなる精査が必要であれば、高次機能病院へご紹介します。
※フォーミュラ食:エネルギー源となる糖質や脂質を極力抑えつつ、必要十分量のたんぱく質、ミネラル、ビタミンを含む規定食のことです。1食あたり200kcal以下(1日の成人摂取量の約1/3)で、たんぱく質を約20g、さらにビタミンやミネラルなど必要な栄養素をバランスよく含んでいます。
肥満症の食事療法では、体格やご自身に合った適正なエネルギー摂取が重要です。急激に食事摂取量を減らすと、エネルギー不足に加え、たんぱく質、ビタミン、ミネラルの不足によって、皮膚症状、むくみ、便秘、貧血、抜け毛、無月経、骨量減少などが現れる可能性があります。こうした点を考慮し、極端な食事制限は避け、適度な運動を取り入れながら健康的に減量を目指しましょう。
運動療法は、食事療法と同時に進めることが大切です。まずは1日の食事量や行動を記録し、摂取エネルギー量と消費エネルギー量を把握します。無理のない範囲から始め、徐々に運動量を増やしていくことをおすすめします。
目安として、1日30~60分程度の運動を週2~3日、可能であれば毎日コツコツ続けるのが理想的です。また、週に2回程度筋力トレーニングを取り入れると、筋肉量が増加し、基礎代謝の向上や体力の改善も期待できます。
運動を始めること自体が重要ですので、ウォーキングなどにこだわらず、生活に取り入れやすい有酸素運動から気軽に始めてみましょう。
ウォーキング、早歩き、水泳、水中歩行、ラジオ体操、ヨガ、スロージョギング(歩くぐらいの速さで走る)、自転車など、太ももやお尻の大きな筋肉をダイナミックに動かす運動がおすすめです。
薬物療法では、BMIが35以上の高度肥満が認められる場合に、マジンドールの服用を検討します(ただし、内服可能な期間は最大3ヶ月に限られます)。また、当クリニックでは漢方診療を専門としており、保険診療の範囲内で患者さんの体質に合った漢方薬を提案し、効率的で健康的な身体づくりをサポートします。
さらに、原発性肥満症で6ヵ月以上の内科的治療を行っても治療効果が乏しい場合、以下のようなケースでは手術療法も選択肢となります。