糖尿病の治療法
食事・運動・薬物療法が糖尿病治療の3本柱になります。治療方法は一律ではなく、前述しました糖尿病のタイプ、患者さん毎のライフスタイル、状態を考慮して治療法を提案します。一定の生活習慣の是正は必要と考えていますが、無理な食事制限、運動過多、薬物療法は長くは続けられませんし、反って体を害することになりかねないため、お勧めしていません。糖尿病は長く付き合っていく病気ですので、当クリニックでは適正体重(BMI21~22)を意識しつつも、「細く、長く、楽しく」をモットーに診療を行っています。

食事療法

日本糖尿病学会が推奨する標準的な食事療法と糖質制限があります。それぞれ一長一短がありますので、一緒に考えていきましょう。厳格に守って行うことよりも、個人のライフサイクルを大きく崩さないやり方をお勧めしています。

日本糖尿病学会が推奨する標準的な食事療法

  • 1日のエネルギー摂取量を、目標体重(身長から計算)とエネルギー係数(日々の活動量)から算出します。
  • 一般的には、算出された1日のエネルギー摂取量の40~60%を炭水化物、20%をタンパク質、残りを脂質とします。

糖質制限

  • 様々な糖質制限方法がありますが、当クリニックで行う場合は、緩やかな糖質制限(1日糖質摂取量130g/日)を紹介しています。
  • 糖質制限を行う際の注意点、短期的・長期的な効果を十分にご理解頂く必要があります。

運動療法

食事療法や薬物療法に比べると影が薄くなりがちですが、重要な治療法の1つになります。血糖を下げるためにはインスリンの作用により糖が骨格筋(筋肉)、肝臓、脂肪に取り込まれる必要があります。その糖の取り込み率は骨格筋約70%、肝臓約30%、脂肪組織数%と言われていますので、骨格筋(筋肉)は血糖値を改善させるためには大切な組織になります。運動の継続は、前述のインスリン抵抗性を改善させます(糖が組織に取り込まれやすい体になる=血糖が下がりやすい体になります)。
  • 運動療法はレジスタンス運動と有酸素運動に分類されます。レジスタンス運動とは、スクワットや腕立て伏せなど、いわゆる筋肉トレーニングのことです。有酸素運動とは、ジョギングなど酸素供給に見合った強度の運動のことです。両者はともに血糖値を改善し、併用によりさらに効果が期待できます。
  • 運動の強度。簡易的には50歳未満は100-120拍/分、50歳以上では100拍/分未満が目安です。体感としては、「ややきつい」、「軽く汗ばむ」程度を参考にしてください。15秒脈拍を数えて4倍するなど計算してもいいですが、最近ではスマートウォッチを活用すると便利です。
  • 運動の持続時間は20分以上、週3回(運動がない日が2日間以上続かない)を目標にしてください。

注意点

運動療法を禁止あるいは制限する必要がある方もいますので、運動療法を開始する前に一度ご相談ください。
(例:極端な高血糖:空腹時血糖値250mg/dl以上、管理されていない網膜症、心肺機能に障害がある場合など)

薬物療法

薬物療法には、「経口薬療法」と「注射薬療法」があります。

経口薬療法

近年DPP-4阻害剤やSGLT2阻害剤などの新薬が続々と登場し、治療の選択肢が増えています。経口薬は8系統、30種類以上あり、同じ系統(例:SGLT2阻害剤)の中でも微妙な効き方の違いがあります。個人のライフスタイルと状態に合った適切な薬物療法を選択できることが、糖尿病専門医の強みです。
当クリニックでは、最新の医療情報をもとに、出来るだけ最小限の薬剤で治療したいと考えています。患者さんが納得しないまま、治療を強要することはしません。

注射薬療法

注射薬は敷居が高く、「注射を始めたら一生続ける必要があるのでは?」と考えている方もいらっしゃると思います。下記のようなインスリン適応の方はいますが、外来初診時に時折遭遇します2型糖尿病による高血糖の場合は、初期治療をしっかり行えば、徐々にインスリンを減らし、中止できる方も少なくありません。ここは糖尿病専門医の腕の見せ所ですが、必要な病態、必要な時期に注射薬を提案しています。その際は十分な説明を行い、納得頂いた上で治療を開始しますので、疑問に思うことがあれば何でもご相談ください。
またインスリン導入後、体重が徐々に増えてきた方もいらっしゃると思います。インスリン製剤を使用するにあたって、低血糖を起こさず、適正体重(BMI21~22)を保ちながら治療を行うことはとても重要です。食事療法・運動療法・経口薬を見直し、適切なインスリン量を提案させて頂きます。
【インスリン療法の絶対的適応】
  • インスリン依存状態
  • 高血糖性の昏睡(糖尿病ケトアシドーシスなど)
  • 重症の肝障害、腎障害を合併
  • 重症感染症、外傷、中等度以上の外科手術(全身麻酔施工例)
  • 糖尿病合併症妊娠、妊娠糖尿病で食事療法だけでは良好な血糖コントロールが得られない時
  • 静脈栄養時の血糖コントロール
【インスリン療法の相対的適応】
  • 著明な高血糖(空腹時血糖値250mg/dl以上、随時血糖値350mg/dl以上)を認める場合
  • 経口薬療法のみでは、良好な血糖コントロールが得られない場合
  • やせ型で栄養状態が低下している場合
  • ステロイド治療時に高血糖を認める場合
  • 糖毒性を積極的に解除する場合
※インスリンを分泌する膵臓にあるβ細胞は、高血糖状態が長期に及ぶと、働かなくなってしまうことがあります。その際に、インスリンを外から補給して膵臓を休ませると、インスリン分泌能が回復することがあります。これを、糖毒性の解除と呼びます。インスリンの分泌能が十分に回復すれば、経口薬治療に戻すことができる場合もあります。
高血糖状態が長期に及ぶと、膵臓の機能が著しく低下します。その際に、インスリンを外から補給して膵臓を休ませると、膵機能(インスリン分泌能)が回復することがあります。これを糖毒性の解除と呼びます。膵臓が十分に回復すれば、経口薬に移行できる場合もあります。
現代においては、注射薬=インスリンではありません。注射薬には、「GLP-1受容体作動薬」と「インスリン製剤」があります。同じ注射薬ですが、効能効果は全く違います。GLP-1受容体作動薬は、血糖値に応じて膵臓からインスリンを分泌させるため、低血糖が起こりにくく、食欲や体重を減らす効果もあります。近年では心血管リスク抑制効果の報告もある製剤です。GLP-1受容体作動薬は1日1回(あるいは週1回)の投与ですし、使い方によっては大きな武器になります。

インスリンポンプ療法について

インスリン療法には、ペン型インスリンを1日1~5回皮下注射する治療法のほかに、持続的にインスリンを注入する携帯型の小型機器を用いたインスリンポンプ(CSII: Continuous Subcutaneous Insulin Infusion)療法があります。加えて、パーソナルCGM機能(リアルタイムに血糖値を持続的に測定する機能)がついたインスリンポンプ(SAP:Sensor Augmented Pump)療法もあります。
リアルタイムCGM

膵臓から分泌されるインスリンについて

膵臓から分泌されるインスリンには2種類あります。1日中ほぼ一定量分泌される「基礎分泌」と食事による血糖上昇に応じて分泌される「追加分泌」です。通常は、膵臓からの基礎分泌と追加分泌が十分に機能しているため、血糖値は1日の間で、100mg/dl前後、食事をしても140mg/dl未満の狭い範囲で推移しています。

2種類のインスリンをどのように補充するか

ペン型のインスリン療法では、主に膵臓からの基礎分泌を補う持効型インスリン(作用時間が長いインスリン:青色)と追加分泌を補う超速効型インスリン(作用時間が短いインスリン:橙色)の2種類を使用します。持効型インスリンを1日1回、超速効型インスリンを食事の回数分、皮下注射します。その他、2種類のインスリンを混ぜた混合型インスリンがあり、1日1~2回皮下注射します。
一方で、インスリンポンプ療法では、超速効型インスリンをポンプに充填し、1種類のインスリンで基礎分泌と追加分泌を補い、血糖コントロールを行います。2~3日に1回のポンプへの補填とチューブ交換を行います。

わざわざインスリンポンプ療法にする必要はある?

ペン型のインスリン療法を行うことで、膵臓の働きを真似ることが可能です。しかし、膵臓から分泌されるインスリンが著明に低下した患者さんにおいては、それが困難なことがあり、血糖値が乱高下し、思わぬ高血糖や低血糖を繰り返す場合があります。その原因の一つに、膵臓からの基礎分泌が常に一定量ではなく、一日の中で分泌量に変動があることが挙げられます。また、追加分泌に関しても、焼肉や中華料理(脂質やたんぱく質の比率が高い食事)を食べた場合、超速効型インスリンを打っても思いのほか、数時間後の血糖値が高くなることもあります。
自身のインスリン分泌能が一定量保持されていれば、インスリン皮下注射+自己の膵臓の能力(状況に合わせて血糖値を微調整する能力)で、比較的血糖変動を認めずに日常生活を送れます。しかし、膵臓からのインスリン分泌が著明に低下した場合は、ペン型のインスリン療法にすべて頼ることになるため、基礎分泌と追加分泌を十分に補えずに、血糖変動が起こってきます。
これらのニーズに応えるべく開発されたのが、インスリンポンプ療法です。インスリンポンプ療法では、基礎インスリンを時間ごとに自由に増減でき、追加インスリンに関しても、食事内容に合わせて、設定された3種類のメニューの中から選択できます。これにより本来の膵臓の働きに近い形で治療が行えるため、血糖コントロールのみならず、生活の質が格段に改善されます。

インスリンポンプ療法の良い適応

  1. 高血糖や低血糖を繰り返すなど、血糖コントロールが不安定(1型糖尿病、インスリン分泌能が著明に低下した2型糖尿病)
  2. 暁(あかつき)現象(早朝に高血糖になる現象)が顕著
  3. ライフスタイルに変化が多い(シフトワーク、出張が多い、よく運動をするなど)
  4. 妊娠中もしくは妊娠前血糖コントロール

インスリンポンプ療法のメリット

  • ペン型インスリンでは、1日1〜5回の皮下注射が必要ですが、インスリンポンプ療法では、2~3日に1回のチューブ交換で済む(注射の回数が劇的に減ります。外食が楽になります)
  • 治療の幅が広がる(食事内容により3種類の追加インスリン設定ができる、勤務体制、運動、月経周期など状況に合わせて基礎インスリン調整が可能)
  • パーソナルCGM機能がついたSAP療法であれば、低血糖時に自動停止(血糖が上昇してきたら再開)する機能がある

インスリンポンプ療法のデメリット

  • 機器を使いこなすために、一定の知識(カーボカウント、機器の操作など)が必要
  • ポンプトラブル(例:ポンプ閉塞)発生時の対処法を熟知する必要がある
  • 皮膚トラブルが少なくない
  • 医療費の負担が増える